総員起シ

吉村昭(著) 文藝春秋
あとがきに以下のようなコメントがありました。

太平洋戦争には、世に知られぬ劇的な出来事が数多く実在した。戦域は広大であったが、ここにおさめた五つの短篇は、日本領土内いいた人々が接した戦争を主題としたもので、私は正確を期するため力の及ぶ範囲内で取材をし、書き上げた。

テクニックを駆使して読者を飽きさせない小説とは違い、事実の持つ凄みだけで読ませる。あとがき通りの著者らしい文章が揃ってます。取り上げられる題材が、人知れず、しかし興味深いものが多い。しかも嬉しいことに北海道が多いですね。ここにおさめられた話の舞台も、「海の棺」が襟裳、「手首の記憶」が樺太、「烏の浜」が増毛です。
仕事で留萌地域を回ってるとき、終戦直後にソ連のものらしき潜水艦によって樺太からの引き揚げで満員の船が沈められた過去を知り、しかも吉村昭が小説にしてるというので欲しくなりました。「烏の浜」がそれですが、他の話も傑作。あまりにもむごい過去を淡々と読ませ、廃盤なのが惜しまれます。Amazonなどで古書の入手も簡単にはなりましたが。iPatの支持者は、今は販売していない出版物のデータ化が進むことに期待する声が多いようですね。他にいくらでも方法がありそうなものですが、考えてみたいテーマではあります。
総員起シ (文春文庫 よ 1-6)
総員起シ (文春文庫 よ 1-6)